統合医療エビデンス
研究チーム
Integrative medicine research laboratory

インクルーシブな発想と手法で根拠に基づく統合医療をめざす

鍼灸やアロマセラピーなど統合医療で用いられる医療技術の根拠と質を基礎研究・臨床研究の両面から明らかにしていきます。基礎研究班は鍼灸や植物精油がさまざまな病態に及ぼす効果について、細胞や分子レベルでの根拠を示すべく研究を行っています。臨床研究班では玉石混淆とされる統合医療の構成要素であるさまざまな治療法のうち、エビデンスが有望とされる手法に関する臨床研究の質を評価し、信頼できるエビデンスの抽出と検証を行います。

統合医療 基礎・分子・臨床・疫学

基礎研究班

現在皮膚疾患に対して鍼灸刺激や植物精油が生体内の細胞や分子に与える影響について、組織学的手法や分子生物学的手法をもちいて検討しています。

植物精油で皮膚炎が抑制

研究のポイント

私たちは鍼灸やアロマテラピーなどの統合医療の効果について、基礎医学的な観点で検討し、科学的根拠を示すことを目的としています。

  1. 統合医療の効果を細胞・分子でとらえる
  2. 科学的根拠を積み重ねる

鍼灸やアロマセラピーといった統合医療は、施術者の経験値によって効果が異なることや、科学的根拠が示されていないことが問題とされています。そこで私たちの研究班では、鍼灸やアロマセラピーなどが生体にもたらす影響を細胞や遺伝子レベルで調査し、その効果を科学的に示すことを目的として研究を行っています。これにより得られた知見が、臨床現場での効果を裏付けるものとなり、統合医療をより効果的にかつ安全に社会に提供できることを願って研究を行っています。

プロジェクトのご紹介

01 皮膚疾患における統合医療の有効性を明らかにする

私たちは皮膚の損傷や疾患に対して、鍼灸やアロマセラピーなどが有効であることを臨床的に経験してきました。しかしそのメカニズムについてはほとんど解明されておらず、不明な点が多く残されています。そこでこれらの施術が生体にどのような影響をあたえるかについて、組織学的かつ分子生物学的に明らかにすることを目的として研究を行っています。現在はとくにアトピー性皮膚炎に代表されるアレルギー性疾患に着目し、鍼灸やアロマセラピーが皮膚組織の構造や免疫反応へ与える影響について検討しています。近年アレルギー性疾患は増加傾向にあることから、この研究で得られた知見が少しでも役に立つことを願って研究を行っています。

プロジェクトメンバー

主たる研究業績

  1. Mori HM, Kawanami H, Kawahata H, Aoki M. Wound healing potential of lavender oil by acceleration of granulation and wound contraction through induction of TGF-β in a rat model. BMC Complement Altern Med. 2016 May: 16: 144. doi: 10.1186/s12906-016-1128-7.
  2. Kawanami H, Kawahata M, Mori HM, Aoki M. Moxibustion Promotes Formation of Granulation in Wound Healing Process through Induction of Transforming Growth Factor-β in Rats. Chin J Integr Med. 2020 Jan; 26(1): 26-32. doi: 10.1007/s11655-019-3083-x.

臨床研究班

中国で発祥した鍼灸治療は、今日では欧米でも臨床現場や研究で注目されています。現代の保健医療に統合され活用できるエビデンスがあるのか、ランダム化比較試験およびシステマティック・レビューの手法を用いて検証しています。

研究のポイント

臨床研究の観点から私たちが考える統合医療は以下の3点を重視しています。

  1. 現行の保健医療では不十分な側面を補う
  2. 臨床的エビデンスに基づく
  3. 同時にナラティブの視点を重視する

玉石混淆とされる統合医療の構成要素から、有望なエビデンスがあるとされる鍼灸治療などの臨床的有用性や安全性に関する信頼性の高い情報を抽出する活動を行っています。一方で、統合医療は必ずしも現行の保健医療にエビデンスの強い補完医療の手段を加えるという意味だけではないので、エビデンスとナラティブ(個々の患者がもつ病や医療に関する信条や「語り」の受け止め)の統合、現代医学と伝統医学の「視点」の統合、多職種連携による保健医療サービスの統合などの臨床的意義についても、新たな解釈や評価を試みています。具体的には、既存の臨床研究手法や評価ツールなどを用いたエビデンスの検証や、独自に取得した臨床データの量的分析と質的解釈などです。これらの成果を通じて、多職種連携の実践における共通理解を容易にするエビデンス提示や臨床情報発信を推進していきたいと考えています。

プロジェクトのご紹介

01 鍼治療の臨床試験および鍼治療の推奨度を含む診療ガイドラインの質の評価

日本で実施された鍼治療のランダム化比較試験の方法論的質について既存のツール等で評価し、年代ごとの推移について分析しました。また、鍼治療に関する推奨度について記載のある国内の診療ガイドラインの質を既存のツール等で評価し、鍼治療の臨床評価および推奨度判定の妥当性について検討しました。このような活動は、今後の鍼灸の臨床研究および臨床活用における課題を明らかにし、将来の研究の質と信頼性を高めることに貢献すると考えています。

(Masuyama S and Yamashita H. BMC Complement Med Ther 2023;23:91)

02 日本人のヘルスリテラシーと鍼治療に関する認識

既存の測定ツールを用いて日本人のヘルスリテラシーを測定し、ヘルスリテラシーと鍼灸に対する認識および受療意思決定との間にどのような関係性があるのかを分析しました。この結果は、今後のヘルスリテラシー教育および補完療法に関する情報発信について貴重な示唆を与えてくれるとともに、エビデンスに基づく医療(EBM)の実践における、エビデンスと個人的価値観の統合についても示唆に富むものとなりました。

(Okawa Y, et al. PLoS One 2023;18:e0292729)

03 がん患者の緩和ケアにおける鍼施術導入の臨床的有用性の検討

がん緩和ケア病棟において鍼施術を導入することによって、疼痛や標準治療副作用の施術前後の変化に関する主観的データを収集し、がん緩和ケアにおいて鍼治療がどのような側面で貢献できるのか検討しています。欧米のがん緩和ケアガイドラインでは補完療法の選択肢のひとつとして鍼治療が挙げられている場合が少なくありませんが、日本におけるデータは少ないため、がん緩和ケアにおける患者の生活の質や満足度をさらに高める統合医療のあり方を模索する上で貴重なデータになると考えています。

プロジェクトメンバー

主たる研究業績

  1. Masuyama S, Yamashita H. Trends and quality of randomized controlled trials on acupuncture conducted in Japan by decade from the 1960s to the 2010s: a systematic review. BMC Complementary Medicine and Therapies. 2023; 23(1): 91.
  2. Okawa Y, Ideguchi N, Yamashita H. Relationship between health literacy and attitudes toward acupuncture: A web-based cross-sectional survey with a panel of Japanese residents. PLOS ONE. 2023; 18(10): e0292729.
  3. Okawa Y, Yamashita H, Masuyama S, Fukazawa Y, Wakayama I. Quality assessment of Japanese clinical practice guidelines including recommendations for acupuncture. Integrative Medicine Research. 2022; 11(3): 100838.
  4. 久保晏奈, 大川祐世, 増山祥子, 山下仁. 慢性腰痛と片頭痛に対する鍼治療における臨床的経穴特異性:システマティック・レビューおよびメタアナリシス. 日本統合医療学会誌. 2021; 14(1): 32-44.
  5. 山下仁, 藤村佳奈, 増山祥子, 大川祐世. 機能性表示食品の機能性の科学的根拠に関する質の評価. 日本統合医療学会誌. 2018; 11(3): 320-326.